■3台目の正直でオーダーメイドカスタムを製作したAUTOMAGICファン
このオーナー様はインターネットの中古車情報サイトを通じてたまたま購入したカスタムバイク2台がオートマジック製のコンプリート車だった。それをきっかけに、「3台目はオーダーメイドで」「ホンダCBX1000ベースで」と製作したのがこのカスタムマシン。
先の2台は機種が異なり、具体的なカスタム手法も異なるものの、フォルムや全体の雰囲気に共通する魅力があり、さらにクセの強い見た目に反して想像より数段まともに走ったことに驚いたそう。他人と違うバイクが欲しいという理由でカスタム車をオーダーしたり完成した車両を購入する際、重要なのはショップのセンスと自分の好みや価値観が合っていることだろう。
世間の評判や評価に左右されて自分自身の意思や希望を引っ込めてしまっては、本当に納得し満足することは難しい。そう考えると、オーナーが先入観なしで好感を抱いて購入したカスタム車が2台続けて偶然にもオートマジックの作品だったという点で、そもそも両者の価値観はピッタリ一致していたといって良いだろう。
■斬新カスタムとニュートラルなハンドリングのギャップがオートマジック流
見た目は個性的でも機能を損なわないというのが、AUTOMAGICがカスタムマシンを製作する際に重要視するポイントである。高性能なサスペンションやブレーキやホイールなどをフル装備しても、それだけでバイクの性能がアップするわけではない。重要なのは骨格であるフレームだ。絶版車のフレームに補強を入れれば確かに剛性は向上するが、それ以前にスイングアームピボットの位置が決まっているか、ヘッドパイプの向きが正しいかなどの素性が重要。
30数年前に創業した際にフレーム測定&修正機を自社開発したAUTOMAGICは、カスタムと並行してフレーム修正を日常業務としていた。その中でフレームアライメントの重要性を知り、転倒や事故による力の加わり方や、修正にまつわる功罪もノウハウとして蓄積してきた。
フレームカスタムにおいて補強材を追加するのは常套手段で、AUTOMAGICでも日常的に行っている。だが過度に熱を加えることでフレームの素材である鉄の性質は変化する。溶接後にフレーム修正機にかけることで、ヘッドパイプの傾きやホイールベースなどの数値は修正できても、強度や粘り強さに与える影響を把握することは難しい。そうした作業をどこまで行うかはショップごとの考え方によるが、AUTOMAGICでは過去の経験と実績を元にメリットとデメリットを考慮してフレーム加工を行っている。
市街地走行やスポーツ走行やツーリングなど、どんなシーンでも多くのライダーが納得できる市販車に対して、ノーマル車のバランスを再構築するカスタムバイクでは、ショップによってはハンドリングや乗り心地のクセが強くなり、オーナーがある程度の我慢や覚悟を求められる場合がある。
絶版車ベースのカスタムマシンの場合、純正パーツに比べてはるかに太いタイヤ、スプリングは硬く減衰力の高いサスペンション、強力な制動力を発揮するブレーキを装備することで、個々のパーツが優秀なのは間違いなくてもコンプリート車として調和を欠く事例もある。
これに対してAUTOMAGICのカスタム車は「見た目は個性的なのに走らせるとびっくりするほど普通」と評価されることが多い。「カスタム車だから走りにくさは我慢してね、とお客様に言いたくない」というこだわりと、それができる技術とノウハウがユーザーにストレスを与えないカスタム車両製作につながっている。
妙なクセがなく、ニュートラルなハンドリングを実現するために重要なのは、フレームの素性とそれぞれのパーツを組み合わせた際の車体のディメンション。ベース車両がカワサキZ1なのかスズキGSX1100SカタナなのかホンダCBXなのかによって純正状態の車体姿勢は異なり、さらに絶版車となればフレームが曲がったり腐食していることも珍しくない。1台ごとに異なるベース車両に応じてオーナーの好みを反映したカスタムを行えば、量産化できるはずはない。もしそれでも、短期間で数多くの車両を製作しようとするのであれば、製作者側が作業メニューを定番化して決まった内容で進行するしかないだろう。作り手側の都合で決められたカスタムメニューが自分好みの内容になっているかといえば、必ずしもそうとばかりは言えないだろう。
ディメンションや車体姿勢はそもそも機種ごとに異なり、タイヤ径やサスペンションなどユーザーが装着を希望するパーツによって枝葉はさらに細かく分かれる。それでも、どのカスタム車に乗ってもニュートラルなハンドリングに逆に拍子抜けするAUTOMAGICのカスタムマシンは、それだけ骨格部分とアライメントの作り込みに重点を置いているのだ。
■オーナーの希望は太いタイヤと黒・白・金のカラーリングのみ。あとはAUTOMAGICにお任せ
2台のコンプリート車を中古車として購入し、いよいよ自分の意思を入れた3台目をオーダーメイドすることになったオーナーの希望は、「純正スタイルをヒップアップヒップアップスタイルにしてできるだけ太いタイヤを装着し、カラーリングは黒/白/金に」という漠然とした内容だった。「自分のために製作されたオートマジックのコンプリート車が欲しい」というのが最大の希望であり、ディティールについてははっきりいえばAUTOMAGICのセンスにお任せというパターンだ。
ターボ装着やドゥカティ748用フレームとの合体など、CBXエンジンを採用したコンプリートカスタムを何台も製作してきた中、今回選択したのは純正のフォルムを踏襲しながらオートマジックらしさを満載する手法。
完成した車両にはオーソドックスでよくあるスタイルという印象も受けるが、これは「CBXらしさを維持して欲しい」というオーナーの意向に沿ったため。個性的で奇抜な仕上げを希望されればもちろんその方向性で進めることはできるが「1980年代のCBXが2023年にあれば」という正常進化版をイメージさせるカスタムもまた、AUTOMAGICが得意とするジャンルである。
■ワンオフでしかできないエンジンハンガーとダウンチューブ
「CBXらしさを維持しながら太いタイヤを装着してケツ上げスタイルに」というオーナーの希望を具現化しつつ、この車両の見せ場としたのは手作りによるワンオフパーツと3D-CADによる独自設計のワンオフパーツの融合である。
ゲイルスピード製ホイールやブレンボ製ブレーキ、オーリンズ製サスペンションユニットなど、部品として購入できるパーツを組み付けるだけならどこのカスタムショップでもできる。一方、ボルトオンカスタムとの差別化を目指すのであれば、世の中に存在しないものを製作するしかない。それがカスタムメイドの真髄でもあり醍醐味だからだ。
このCBXではダイヤモンド型フレームとシリンダーヘッドをつなぐエンジンハンガーマウントをスチールパイプで製作。その形状は単純な三角形ではなく一辺をラウンドさせ、内側にはボックス形状のガセットを溶接、上辺の延長上にはオイルクーラーマウントも併設した上で、あえてクリア塗装仕上げとした。ワンオフパーツといえばアルミ製の削り出し部品が筆頭に出てくるが、AUTOMAGIC流のハンドメイドをアピールしている。
このエンジンハンガーのマウントボルトを利用して固定されたクロモリパイプ製ダウンチューブもまた、AUTOMAGICならではのワンオフパーツである。ユニットDFCフレームを筆頭に、フレーム加工やカスタムにおいて日常的にクロモリパイプを使用する中でアルミ材との違いを認識し、6気筒エンジンを包み込むように配置された図面では表現できない曲げ加工こそ、オートマジックの真骨頂といって良いだろう。。
このダウンチューブが、ビトーR&D製マフラーのエキゾーストパイプの間を通るデザインも特徴のひとつ。純正パーツとして元からその場所にあったかのように違和感のないスタイルはCBXユーザー間で評判となっているが、装着するマフラーによってエキパイや集合部分のレイアウトが異なるため、汎用パーツとしては販売できないという。それもまたオーナーにとってはワンオフならではの優越感につながるポイントとなるはずだ。
ダイヤモンド型フレームのCBXの場合、エンジンを保護するためのスライダーをクランクケースにダイレクトにマウントすることで、転倒時にケースが割れる二次被害の事例がある。それを教訓に、このダウンチューブを取り付けることで加わる衝撃を緩和できるメリットもある。
エンジンハンガーやダウンチューブのディティールからも「まっすぐつなげば簡単だけど、ちょっと曲げたい」というオートマジックならではの遊び心とセンスが垣間見える。
■見た目のデザインと機能性のつじつまを合わせるために3D-CADでステム周りを設計
現場、現物に応じて手作業で製作するワンオフパーツに対して、AUTOMAGICではアルミ素材から削り出して製作するワンオフパーツも1ランクも2ランクもレベルアップしている。
このCBXで注目すべきポイントは、全長800mmの倒立OHLINSフォークを支えるトップブリッジとアンダーブラケット、いわゆるステムキットと呼ばれる部分。どちらも社内スタッフが3D-CADを使ってこの倒立OHLINSのために設計したオリジナルパーツである。
ショップが製作するオリジナルパーツにはいくつかの種類があるが、自社内で加工図面まで作図している例はレアケースだ。実際の加工は外部に依頼するが、図面を製作した上で応力解析も可能なソフトとスタッフのスキルが備わっている。
自社設計ならではの個性が、軽量化のための肉抜きは加工。一般的には切削加工を容易にするため縦方向から削るものだが、今回はH鋼材が持つ剛性の特性を用いて横方向から切削を行っている。横から削ることで他のメーカーやショップにはない独自性を発揮できるのは確かだが、ひらめきを機能性のあるパーツとして成立させるために応力解析を行い、裏付けを持った意味のある部品としているのが大きな特長である。
ではなぜ、このCBXではこのステムキットを採用したのか。ここで冒頭の「違和感のないハンドリング」というキーワードが出てくる。
サスペンションやタイヤ径を変更して車体姿勢が変わることで、バイクの操縦性に大きな影響を与えるキャスター角やトレール量も変化する。フレームのヘッドパイプにフロントフォークを固定するステムキットはフロントフォークをクランプするだけでなく、車体側の変化が操縦性の違和感につながらないようにする役割がある。
トレール量とはタイヤの接地面とステムシャフトの延長線上が地面に接する位置との距離を指し、一般的にトレール量が多いと直進安定性が向上し、少ないと運動性が高まると言われている。トレール量を決めるのはステムシャフトと左右のフロントフォークを結ぶ位置までの距離で、これをオフセット量と呼ぶ。
トレール量はキャスター角とタイヤ径とフロントフォーク長とオフセット量によって決まるため、車体姿勢=キャスター角と装着するタイヤが決まった状態でトレール量を変えたい場合、ステムキットののオフセット量を変えるしかない。このステムキットはオフセット量可変式を採用しており、トレール量再設定の幅を持たせてある。
「つじつまを合わせる」というとイメージが良くないかもしれないが、純正とは異なるパーツを組み合わせるカスタムバイク製作では、どこかで合わせるべき点を合わせることが重要となる。キャスター角とタイヤ径とフロントフォーク長が決まった状態で好みのハンドリングにするには、可変式オフセット機能を持つステムキットが必須となる。
この関係性を理解すれば、ワンオフで削り出すトップブリッジやアンダーブラケットは決して伊達や見栄のためではなく、違和感のないハンドリングを実現するために必要な要素であることも納得できるだろう。
3D-CADで設計、製作したもうひとつのパーツが、ブレンボ製ラジアルマウントキャリパーとフロントフォークをつなぐキャリパーサポートだ。高い寸法精度は当然のこと、自社ブランドのXrossModeとCBXのXをイメージしたリブ形状は強度計算に基づいて設計されたもので、機能性とワンオフパーツならではの遊び心を両立している。
製作したいパーツの図面が描けるだけでなく、使用する材料ごとの強度計算を含めた設計を行うにはCAD設計のキャリアを持った人材が欠かせない。社内設計が可能となったことで、AUTOMAGICの切削部品は新たな次元に踏み出したと言っても過言ではない。
■凝縮感のあるデザインと見た目を超える扱いやすさを両立する製作スキルが魅力
昔ながらの曲げ加工や溶接による加工と3D-CADによる削り出しパーツ類は、確かにこのCBXの個性に欠かせない要素であることは間違いない。しかし一方で、それらはすべて目的のための手段であり、大切なのはそうした手段やブレンボ、ゲイルスピード、オーリンズといったきらびやかなパーツを使ってどのようなカスタムバイクを仕上げるかといった目的である。
趣味でバイクに乗るのなら、性能や世間の人気ばかりにとらわれず自分の好みを第一に選べば良いのだが、さまざまな理由から他人の目を気にする人は少なくない。皆と同じ純正ノーマルではなく、自分好みに仕立てるカスタムバイクなら、なおさらオーナー自身のこだわりや理想を追求すべきだろう。しかし他人からどう思われるかを考え「皆がそうするから」と流されることを良しとする風潮もある。
決まったパーツを手慣れた順序で組み立てる定番的なカスタム車に共感できるのなら、それも良いだろう。だが周囲の視線や意見に惑わされることなく、自分自身が納得でき満足できるカスタムを実現したいなら、そうした希望に応えてくれるショップと付き合わなくてはならない。
個性を求める一方で、走行性能を引き上げるために高性能パーツを装着する以上、プラモデルのようにパーツが付くか否か、単にカタチにするだけではなく、乗りやすく走りやすく仕上げることも重要だ。ここを軽視するとユーザーは我慢を強いられることになり、せっかく製作したカスタムバイクの楽しさが半減してしまう。
空冷6気筒エンジンの存在感に負けない太いタイヤとボリューム感のある足周りが、いかにもカスタムバイクらしいAUTOMAGIC製CBXコンプリート。だがここまでの説明でお分かりいただけるように、このマシンの真価はルックスと操縦性の両面にある。フレームや車体のディメンションなどの骨格部分から「当たり前のように走るバイク」を製作できる技術力があるからこそ、ユーザーは思いきり自分自身の好みを反映したマシン製作を依頼できるのだ。
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